独立会計士のおぼえがき

独立会計士として過ごすためのあれこれを文章にしてみる。

スキームについての話

 ここでいうスキームというのは、個人事業主だとか株式会社だとかを指しています。

 監査等の規制業務を除くと、この会社形態でないとだめ、といった制約はあまりないのですが、節税施策や営業、契約窓口の一本化等を考えるときにはある程度スキームを検討する必要が出てきます。

 そんなわけで今回のお品書きです。

スキームごとの特徴

 会計士の独立にあたって登場するスキームは細かく言えば色々考えられますが、ざっくりと区分すると以下の通りです。実際には、下記を複数組み合わせるケースが多いのではないでしょうか。

個人事業主

 始めるのが最も簡単かつシンプルな形態です。会計士の場合はその性質上、会計事務所を名乗った時点で個人事業主と言ってしまっても差支えありません。とはいえ、実際には日本公認会計士協会に事務所設立の登録や、所轄の税務署への開業届の提出等が必要です。

 事実上、独立会計士としての業務は、とりあえず事業主にさえなってしまえばほぼ全て実施可能です。公認会計士の独占業務である会計監査をはじめ、各種業務委託やコンサルティング、税理士登録を行うことで税務業務についても事業主として受注することができます(逆に、会計士(監査法人)/税理士(税理士法人)の独占業務である監査/税務業務については、例えば株式会社で受注することは仮に役員全員が資格保有者であったとしても、法令上できません)。

 大した手続もなく業務の開始が可能となるので、独立後ひとまずは事業主としての活動を始めるパターンが多いのではないかと思います。

会社

 会社にも色々ありますが、最もよく登場するのが株式会社、次点で合同会社かと思います。要するに有限責任の会社形態ですね。

 設立の手続諸々を司法書士に依頼すると、株式会社の場合で概ね総額30万円弱、合同会社の場合で総額15万円弱程度必要となります。定款の認証費用等、固定で必要な金額+司法書士への報酬が数万円で上記の金額になるイメージです。自分で全て手続をすることもできますが、定款の認証費用が高くなる(正確には、定款を電子定款とした場合に認証費用が安くなるのですが、電子定款を作成できるのが司法書士のみ)ため、司法書士に依頼したケースと費用負担はあまり変わりません(ちなみに弊社の場合は「今後お付き合いを持つ司法書士さんがいてもよいのでは?」という思いもあり、設立手続を司法書士さんにお願いしました)。

 前述の通り、業務自体は事業主として開業さえしてしまえばできてしまうのですが、実際には独立時に会社を設立するケースが多いと思われます。なぜかというと、会社設立により以下のようなメリットがあるためです。

 他にも色々あるかと思いますが、前職での所得がある程度ある方は、独立当初は特に税金・社会保険料の節約がメリットとしてかなり大きいと思われます。

 一方、会社設立によるデメリットも存在します。

  • 行政・人事関連等の各種手続が必要
  • 利益が無くても定額の税金が発生する(住民税均等割。東京23区なら7万円/年~)
  • 会社の利益を役員に分配する方法の検討が必要(報酬 or 配当など)
  • 会社の利益に法人税がかかり、報酬や配当の支払時には役員側で所得税がかかる

 などなど。

 実際に会社設立を行うかどうかはメリットとデメリットの比較衡量になりますが、個人的にはメリットの方が大きいのではないかなと思います。

その他

 その他にも実施する業務に応じて様々なオプションがあります。例えば会計監査を会社として受注したければ監査法人を設立する必要がありますし、税務業務を行う場合には税理士法人を設立するという選択肢もあります。 

 また、株式会社を複数用意し、受注する業務の種類に応じて使いわける、といったこともあるようです。

組み合わせ例

個人事業主+株式会社

 1人で独立する場合はこのパターンが多いと思われます。株式会社の運営をベースにしつつ、監査や税務等、株式会社では受注できない業務を個人事業主(個人の会計事務所)として受注していくことになります。なお、個人事業主と株式会社で同一種類の事業を営んでしまうと、意図的な所得分散として指摘を受ける可能性がある点には注意が必要です。

個人事業主+株式会社+税理士法人

 複数人で共同で独立する場合は、税理士法人を設立するパターンが多そうです。ちなみに私の場合はこのパターンです。完全に一人で行う業務であれば個人事業主、他メンバーと共同して行う業務であれば株式会社、税務業務であれば税理士法人でそれぞれ受注、といった使い分けをしており、経費面も対応する業務に応じて振り分けています。

 税理士として開業すると、保険を始めとした節税になりうる商品の代理店になりませんか? といった営業を受ける機会が多くなります。税理士法人税理士法によりその業務範囲が限定されており、代理店業務の実施は制限されています。そのため、そのような事業を行う場合は、それ用の会社を設立するケースもあります(もともとある株式会社でもOK)。

 さらにいうと、ここに監査法人を加えることもあるようです。ただし、税理士法人が税理士2名で設立できるのに対し、監査法人の設立には最低5名の公認会計士が必要であるため人的なハードルが高い、受注が難しい、そもそも監査に興味がない、などの理由で、私の周囲では監査法人の設立をしているケースは珍しいかもしれません。

まとめ

 しつこいようですが、とりあえず個人事業主として開業しておけばどうとでもなります。さらにいうとあとから変更がきかないわけでもありませんが、名義変更の手続きが面倒だったり、無検討の場合はメリットを逃してしまう可能性もありますので、特にこれから独立を検討されている方はじっくり考えてみてもよいのではないでしょうか。

 というわけで今回は独立のスキームについてのお話でした。